会員様からの寄稿

大旅籠柏屋ギャラリー展にて
   東海道53次を走る旅人


柏屋は江戸時代の大旅籠で現在は江戸時代の歴史を伝える文化施設である。毎年8月この施設内にあるなまこ壁ギャラリーで展示会を開いてもう20年近い。2週間の期間中には東海道53次の21番目の宿場町ということもあって、東海道を旅する旅人も立ち寄ってくれる。
リュックを背負った若者がギャラリーの扉を開けた。「横須賀市走水にある防衛大学に帰る途中で、街道をずっと歩いている」ということだった。「4年生で卒論はまだ何も書いていないけど、古今和歌で」と言うので目が点になった。防衛大という私の勝手なイメージでは卒論を古今和歌にするのはびっくり。
私が高校生の時、中学卒業で海上自衛隊に入った同級生がいた。しばらく文通をしていた。手紙には私の体験しない出来事で「ボートを漕ぐ訓練でおしっこに血が出た」という文があった。その時私の心は突然恥じた。自分ののんびりした高校生活と比べ過酷な人生を選択した同級生の存在に返事を書けなくなった私だ。
文通はしなくなったが隊が休みになるとブルーネイビーの海上自衛隊の服で私の家に寄ってくれた。その姿がまぶしかったことを思い出す。
ギャラリー案内が終了し、車で自宅に帰る時だった。リュックを背負って走っている人がいた。見るとさっきの青年だった。「ずっと走っていくのー」と窓を開けて叫ぶと、「走ったり、歩いたりですよー」との返事。体幹がしっかりしていて、きっとどんな訓練もクリアーできるんだろうなと思った。
その夜、古今和歌集を調べて見た。選者の名前は紀貫之を含む4人だとか、小野小町・紀貫之・在業業平などの読み手の名前があった。「源氏物語」においてもその和歌が多く引用されているとも知った。     
静岡県立美術館館蔵品に『古今和歌集巻第一断簡〈亀山切〉』がある。よみびとしらずの和歌三種である。
本物を観ているはずだが記憶には無かった。
 図録で「静岡県の名宝展」で展示していたとわかった。西行の筆よりもやさしい書体で書かれていた。

  


2021年06月18日 Posted by 県美友の会 at 16:04トピックス